人間から人間への情報伝達の時間を、見誤る。
経験値によって、AさんからBさんへの情報伝達のスピードは、上がります。
例えば、アメリカの現地の人間にソフトウェアの設計を始めて行わせるときに、経験豊富な日本人がリーダーになり、教えていきます。リーダーの前田さんは、部下に概要を話して、「これを、やって設計してみてください。」と部下のリチャードに言います。リチャードは、経験豊富なシステムアーキテクトで、知能も高い人です。
数日たって、リチャードの様子を見ると、何だかあまり進捗していません。
さて、何が起きているんでしょうか?
前田さんは、日本では何回も大規模プロジェクトをマネージしてきた人です。部下も持っていて、指示も出していました。
私が、リチャードに「何か困っていることはないですか?」と聞くと、「私の仕事のインプットが何かわからない。」と言います。彼には設計のお仕事をお願いしているのだから、要件は、きちんと彼に伝えられているはず。でも、それがちゃんと伝わっていない。
前田さんを呼んで話を聞くと、「ちゃんと、話しましたよ。」と言う。
最初は、私も、単なるコミュニケーション不足だと思っていたんですが、そうではなかった。
前田さんは、言ったつもり。しかし、リチャードは、完全に腹にはまっていなかった。理解の深さが、非常に浅かったんです。でも、そんなの当たり前です。初めてやらされること、初めて聞くことが、一瞬でわかる天才はいません。
日本では、前田さんの仲間は、同じようなプロジェクトをこなしてきた経験者、熟練者の集団です。
だから、一(いち)言うと、十(じゅう)わかる人たちなんです。
リチャードが、言われたことを咀嚼する時間と言うものを、きちんとプロジェクト計画に盛り込んでいかないと、一瞬でプロジェクトと言うものは、遅れるんです。
日本企業は丁稚奉公で、ソフトウェア開発を訓練します。最初は、小さい部分から始め、徐々に、経験を積んで、範囲を広げていきます。大学卒の新人は、はじめは、何がなんだか、わからないまま、言われることだけをこなしていく。その中で、様々な疑問を持ち、それを解きと言う訓練を続けます。
アメリカのソフトウェア開発の熟練工を中途採用して、彼らに仕事を渡す場合には、それでば成り立ちません。
プロジェクトの全体像を話し、全体のスケジュールを丁寧に話し、与えられた仕事と周りの人たちの仕事に依存関係を説明し、と十分に意思疎通していかなければ、彼らは動けません。当たり前の話です。ところが、このようなコミュニケーションのロスが、日本でしか経験していない日本人エンジニアは、わからないんです。
コミュニケーション(情報伝達と十分な理解)の時間をきちんと入れてスケジューリングしないと、プロジェクトの遅延は火を見るより明らかです。
アメリカと日本とのプロジェクト・マネージメントの方法の差、お客様への説明と、お客様が、こちらからの提案を腹落ちするくらいに理解する時間など、うっかり過小評価してしまいます。
情報伝達スピードが、未経験者には、予想できません。
阿吽の呼吸が成り立たないことが、日本人には、頭でわかっていても身体でわかっていないので、スケジュールを見誤ります。
いくらPMBOKに従って、コミュニケーションプランを作っても、アメリカ人は、アメリカ人同士の阿吽の呼吸を期待しますし、日本人は、日本人同士の阿吽の呼吸を期待してしまいます。それぞれが、違う速度と質を持っています。
この差を経験できるラッキー人は、そんなに多くは、いらっしゃらないかと思いますが、多国籍チームによるプロジェクト・マネージメントは、このコミュニケーション・ロスを十分注意しなければなりません。
以上
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